中古の券売機
はじめに:そこにあったのは、新品の券売機だった
――その店に入ったときのことを、僕はどうしたってはっきり覚えている。
ドアを開けると、やっぱり入口の脇に背の高いタッチパネル式の券売機が立っていた。
中古品にありがちな、少し黄ばんだ筐体でも、角の欠けた画面でもない。
まっすぐで、静かで、まだ余計な癖を覚えていない感じの機械だった。
新品の券売機、という言葉が、あとから自然に頭に浮かんだ。
あとで知ったことだけれど、その店は導入時に「券売機 中古」も検討したらしい。
初期費用を抑えるために。
それは、とても現実的な判断だと思う。
でも最終的に選ばれたのは、新品の券売機だった。
理由は、スペック表よりも、もっと静かなところにあったみたいだ。
液晶の中では料理の写真が、まだ誰の指にも慣れていない顔で並んでいた。
指先で画面に触れると、水面に触れたみたいに、ひんやりとした。
ボタンを「押す」のではなく、「触れる」。
そのとき僕は、ほんの少しだけ肩の力を抜いた。
理由は簡単で、この機械が、まだ誰にも疲れさせられていないと感じたからだ。
新品の券売機には、そういう静かな余白がある。
1.中古券売機という、現実的な選択肢
券売機を導入しようとすると、必ず一度は「中古」という選択肢が頭をよぎる。
価格が安い。
納期が早い。
すぐに使えそうだ。
たしかに、券売機の中古市場には、まだ動く機械がたくさんある。
前の店では問題なく使われていた、という謳い文句もついてくる。
でも中古券売機は、すでに誰かの店のリズムを覚えている。
操作の癖。
画面の反応速度。
ボタンやタッチパネルの消耗。
それらは一見すると見えにくい。
けれど、毎日の営業の中で、少しずつ顔を出してくる。
新品の券売機は、そういう記憶を持っていない。
店のリズムに、これから合わせていく余白がある。
その差は、思っているより大きい。
2.「動く」と「安心して使える」は、少し違う
中古の券売機でも、もちろん動く。
電源は入るし、発券もできる。
でもそれは、「いま動いている」という事実にすぎない。
タッチパネルの感度。
内部部品の摩耗。
キャッシュレス決済端末との相性。
そういった部分は、使い続けてみないとわからない。
もし営業中に不具合が出たら、その瞬間に店の流れは止まる。
新品の券売機は、メーカー保証がついている。
初期不良への対応も明確だ。
サポート体制も、最初から前提に組み込まれている。
中古券売機の場合、
・保証が短い
・サポートが限定的
・部品供給が不安定
そういった条件が重なることも多い。
「動く」ことと、「安心して任せられる」ことは、少し違う。
3.流れを整えるなら、最初から新品のほうがいい
券売機は、ただ置くだけの機械じゃない。
注文から決済までの流れを、ひとつのリズムに整える装置だ。
画面を見る。
商品を選ぶ。
支払い方法を選択する。
決済が完了する。
この一連の流れが、毎日、何百回も繰り返される。
そこで少しでも引っかかりがあると、行列は伸びる。
中古券売機は、過去の仕様のまま止まっていることが多い。
最新のキャッシュレス決済に対応していなかったり、
ソフトウェアの更新ができなかったりする。
新品の券売機は、今の店の流れを前提に設計されている。
将来のアップデートも、最初から想定されている。
流れを整えるなら、最初から無理のない選択をしたほうがいい。
4.スタッフの負担は、見えないところで差が出る
券売機を導入する理由は、人を減らすためじゃない。
仕事を、少しだけ楽にするためだ。
でも中古の券売機は、
「たまに反応が遅い」
「この時間帯だけ調子が悪い」
そんな癖を持っていることがある。
そのたびに、スタッフがフォローに入る。
再起動する。
説明する。
謝る。
新品の券売機は、そういう余計な会話を生まない。
機械が、機械としてちゃんと仕事をする。
結果として、
料理を見る時間が増える。
店内に目を配る余裕が生まれる。
人が、人らしい仕事に戻っていく。
5.画面の中のセールスマンは、若いほうがいい
タッチパネル式券売機の画面は、無口な営業担当だ。
おすすめ表示。
セット提案。
期間限定メニュー。
これらは、ソフトウェアの設計に大きく左右される。
中古券売機の場合、表示機能が古いままのことも多い。
新品の券売機は、
視認性
操作導線
写真の見せ方
そういった部分が、今の利用者に合わせて作られている。
結果として、追加注文が自然に増える。
誰かが声を張らなくても、売上は少しずつ積み上がる。
営業担当は、できれば若くて、柔軟なほうがいい。
6.データは、新しい器に積もったほうがいい
券売機は、売上データを静かに蓄積していく。
時間帯。
商品別。
決済方法。
新品の券売機は、ASPサービスとの連携が前提だ。
データはリアルタイムで集まり、分析もしやすい。
中古券売機の場合、
・データ連携が限定的
・外部システムとつながらない
そんなケースもある。
経験や勘に、数字を重ねていくなら、
最初から新しい器を選んだほうが、長く使える。
7.費用の話を、少し長い目で見る
たしかに、券売機の中古は初期費用が安い。
それは事実だ。
でも
修理費
サポート費
更新できない機能
そういったものが、後から積み重なることもある。
新品の券売機は、最初にきちんと費用が見える。
保証があり、サポートがあり、将来の拡張も考えられている。
短距離走か、長距離走か。
どちらを走るかで、選ぶ靴は変わる。
おわりに:新品という、静かな選択
券売機を選ぶことは、
中古か新品か、という話だけじゃない。
どんなリズムで、
どんな空気の店をつくりたいか、
という話だ。
新品の券売機は、何も語らない。
でも、その沈黙の中には、まだ何も決めつけていない余白がある。
その余白に、店の流れが書き込まれていく。
毎日の注文。
毎日の支払い。
毎日の指紋。
電子音が、小さく鳴る。
その音は、まだ少し新しい。
少なくとも僕には、
「長く付き合うなら、これだ」と、そう聞こえた。
2026年2月13日 BOSTEC編集部